Rotted One Note

シンセサイザー雑記

Fender "Chroma Polaris"というシンセサイザー

Chroma PolarisのM4L MIDIエディターを公開した前の記事で書き連ねたように、10年近く側に置いてきたこのシンセへの愛着が最近いっそう強まってきた。数々の故障で満身創痍になりながらも、上品ながら深いコクのある音を出してくれるアナログポリシンセだ。なんと表現すべきか、Aphex Twinライクな質感の音で、他に代えが効かない。

いまそのポテンシャルを理解するようになったので、この機会にここで紹介してゆこうと思う。インターネット上では不正確な情報も多く散見され、特にオシレータの機構についてはひとつも確かな情報が見当たらなかった。この記事では、このシンセサイザーについて詳細に掘り下げてゆきたい。仕様については煩瑣なまでに網羅的に記述したので、機能面に興味が無ければ、3章「Polaris Oscillatorの秘密」まで読み飛ばすことをおすすめする。ヴィンテージシンセマニアの興味を引くに足るものになれば幸いである。

1. 来歴

Chroma Polaris1984年にFenderから発売された。開発はArpによって進められたが、81年に倒産してCBS/Fenderに買収され、開発チームが移籍することになったのである。
Arpは78年に"Quadra"、80年に"Solus"を発表した後に、本格的なポリフォニックシンセサイザーの開発を進めていた。そしてFenderに移った後、82年に発売された8(16)ボイスポリフォニックシンセサイザーRhodes "Chroma"に次いで、廉価モデルの6ボイスポリフォニックシンセサイザーとして発表されたのがこの"Chroma Polaris"だ。とはいえ音源部の機構はほとんど異なっているため、Chromaとは別物だと思った方が良いだろう。そして私の所有する"Chroma Polaris II"は翌年の85年に発売されたものだが、製造が日本であることと、出音に有意な差異が無い程度の若干の回路の変更とファームウェアの改良があることを除けば、初代Polarisと同じものであり、機能などにもまったく違いはない。

そのあたりの事情については詳しい記事が他に多く存在しているので、これ以上述べる必要はないだろう。
特に、お馴染みのAlex Ball氏による次の動画はよくまとまっており面白い。手っ取り早くこのシンセサイザーについて知るにはうってつけの動画である。

youtu.be

また、前の記事でも言及したが、Rhodes Chromaにはコンテンツの充実した同好者コミュニティサイトが存在しており、Polarisの資料なども多く手に入る。
Rhodes Chroma · Polaris

2. 仕様概観

それではChroma Polarisがどのようなシンセサイザーであるのか見ていこう。


6ボイス最大6トラックのマルチティンバーが可能、ただし出力はモノラル
フルプログラマブル
Linkモード:プログラムを呼び出し、分割したキーボードの上側か下側のいずれかに割り当てるか、あるいはユニゾンでの演奏が可能。
1トラックポリフォニックリアルタイムシーケンサー:12パターンまで。ノート数は内臓メモリー依存だが、最低700ノート。編集ができないので、ほとんど使い物にならない。

以下、ボイスごとに
Dual VCO (CEM3374):それぞれ出力可能な波形はSaws/Pulseの二種類(ただし後述のように、実際にはかなり特殊な仕様になっている)
Pink Noise Generator
VCF, VCA (CEM3372):4極LPF(24db/oct)
LFO (digital):Sine/Squareの二種類(0.1Hz - 10Hz)
 →各OscのPulse Width、PitchとFilter Cutoffに割り当て可能(両極)
Filter Envelope (digital):ADSDR Env(Velocityに対応)
 →各OscのPulse Width、Osc2のPitchとFilter Cutoffに割り当て可能(両極)
Amp Envelope (digital):ADR Env(Velocityに対応)


パラメータは以下の通り。
↓本体のフロントパネル

↓私がデザインしたUI

構成、Polaris LPFの魅力

CEM3374 + CEM3372 という組み合わせは、Oberheim Xpanderと共通する構成である。そのため、PolarisをXpanderの部品取りに使うという話もよく聞く。(Xpanderのあのマルチモードフィルターはこの同じ3372をうまく使って設計されているらしい。そのあたりの知識がないので残念ながら掘り下げることはできないが、調べると回路図など情報がたくさん出てくる。)
Dual VCOに3374が使われているシンセは、他にAkai VX600がある。VCF (+VCA)に3372が使われているものでは有名どころも多く、SCI Prophet 600やT8、Simmons SDS8など。

PolarisはこのLPFの効き方が絶妙で、素晴らしい音を作る。Resonanceを上げても、音量が下がらずに広い音域でしっかり出るので、むしろ音が太くなるのだ。だからフィルターのスイートスポットが他ではあり得ないほど広く、どの位置も本当に味わい深い。逆にそのまま自己発振させると耳に刺さる痛い音になってしまうから、その場合はVolumeを下げねばならないが、これくらいが一番使いやすいだろう。けれども、ここにさらにHPFがあったなら、もっと「強い」シンセになっていたのではないかと夢が広がってしまう。
(ちなみにPolarisのFilter Resonanceは、パネルに他のパラメータと同じ長さのスライダーを持っているにもかかわらず、実際には0-7の8段階しかない。連続的に変化をつけることができないのは少し残念。)

このLPFの特性はCEM3372の強みらしいが、Prophet 600なども似たような効き方をするのだろうか。ポリフォニックシンセのLPFでは、知る限りこれが一番好きな音なので気になるところだ。

MIDI

PolarisMIDI黎明期(MIDI規格の公開は1981年)のシンセにして、MIDIが最大限に実装されている。サウンドの全パラメータはCCの入力・出力いずれも対応しており、かなり幅の効く操作が可能だ。
そしてMain, Link, Sequencerはそれぞれ別のMIDIチャンネルに割り当てられているのだが、これに加えてエクストラMIDIチャンネルを設定できる。つまり、6ボイスのそれぞれを別々のMIDIチャンネルに割り当て、6トラックのマルチティンバーシンセとして鳴らすことができるのだ。(ただし、おそらく本体のパネルからはメインチャンネル以外のサウンドをエディットすることができないので、外部から操作する必要がある。)
出力はモノラル×1なので、ストリングスとベースを同時に鳴らすといったことはあまり考えられないが、これで各ボイスごとに個別の出力があれば最高だ。そもそもそんなポリシンセはフラッグシップモデルでもほとんど無いのだが、エフェクトやステレオのミキサーを内蔵させるくらいなら、個別の出力があったほうがよっぽどより広いことができるのに、といつも思う。これはあまり共感されない願望なのか。

Velocity

Polarisはタッチ・センシティヴ、つまりVelocityに対応しており、Amp EnvとFilter Envにはそれぞれベロシティの有効・無効を設定できる。Velocityに応じてアタックを早めたりすることはできず、エンベロープのPeak Volumeを調整するだけではあるが、それでもPWやOsc2のPitchのモジュレーションに割り当てることができるFilter Envに対しても有効なのは、かなり音作りの幅を広げてくれる。
ただしVCAの仕様のせいか、Performance Volume(各ボイスのVolume)とMaster Volumeのいずれもが高い値に設定されていると、出力される音量がPolaris内部のPeak Volumeを超えてしまい、Velocityの影響が無くなってしまうようだ。Amp EnvのVelocityを有効にする場合は、その余裕が残るようにうまくVolumeを調整してやる必要がある。

Polyphonic Aftertouch

Polarisにはペダルによるモジュレーションを、Sweep Rate, Vibrato, Pitch, Cutoff, Volumeの5つのパラメータに対して詳細に設定することができるのだが、実はこれにより、Polyphonic Aftertouchによる複雑な表現が可能となる。
あくまでPolarisのキーボードはAftertouchに対応していないのだが、外部からのKey PressureないしChannel PressureのMIDIコマンドはPedal Expressionとして受け取られ、個々のボイスごとにモジュレーションが適用されるという仕様になっている。
この柔軟性、拡張可能性のために、まだまだ限界を見せることのない優秀なシンセである。

Glide

PolarisのGlideが有効になるのは、サステインペダル(CC #64)を踏んでいる間のみだ。Mono Modeにすれば効くようになるわけではない。この仕様のおかげで、303のシーケンサーのようなSlideの打ち込みがポリフォニックでもうまい具合にできる。

LFO = Sweep

Polarisでは、LFOは"Sweep"と呼ばれている。SineとSquareのいずれかの波形が選択可能だ。Sineの場合は、6つのSweep Generatorは非同期でfree-runであるが、Squareの場合は同期しており、ノートのトリガーに応じてその都度リセットされる。
周波数をテンポに同期させることはできないのが残念なところ。せっかくClockを内蔵していて、SyncやMIDI Clockにも対応しているのだから、実装してくれても良かっただろうと思う。Polarisへの不満の最たるものかもしれない。

Vibrato / Delayed Vibrato

Mod LeverはVibratoに割り当てられており、Sweepが両オシレータのPitchにかかる。
さらにPolarisはこの"Vibrato"とは別に、"Delayed Vibrato"をもっている。こちらは設定したDelay値だけノートのトリガーから遅れて、SweepのビブラートがOsc1とOsc2とのそれぞれにかかるというものだ。"Vibrato"とは違って、Mod Leverを介さずに直接適用される。また、それぞれのオシレータに個別にそのDepthを両極で設定することができる。

Selective Pitch Bend

"Bend Lever Range"でPitch Bendの幅を設定できる(-16..+15)のだが、実はこのRangeを負の値に設定すると、Pitch Bendが逆に働くようになるのかと思いきや、"Selective Pitch Bend"が働くようになる。つまり、押さえているノートにのみPitch Bendがかかるようになる。
マニュアルを読んで初めて知ったが、なかなか独特な機能だ。私は鍵盤を弾かないので、それでどううまく演奏するのかなかなか想像がつかないのだが、打ち込みでできる表現の幅が広がって面白い。Glideと合わせて、かなり複雑なポリフォニックのシーケンスができそうだ。

3. Polaris Oscillatorの秘密

オシレータの仕様

Polarisのオシレータはいずれも、SawsとPulseの二種類の波形を持っている。
それぞれのバランスを調整するためのVolumeのつまみは存在せず、オシレータの出力を切るためには、Pulseを選択してPulse Widthを-64か+63に設定する他ない。
また、Frequencyのパラメータが無い代わりに、それぞれ半音単位のTranspose(最大+5オクターブ)ができるようになっている。
Pulse WidthのパラメータはSawsに対しても影響するようになっている。パネルのOscillatorセクションに、Pulse WidthとPulse Width Modulationの2つのスライダーしか並んでいない所以だ。PWMのソースには、SweepかFilter Envかのいずれかを選択できる。PWMも両極の値を持っているのだが、実はこれを負の値に設定すると、PWMの量がキーに比例してかかるようになる。SweepがPulse Widthにかかる際に、見かけ上の変調量がキー全体を通して同じになるように工夫された機能だ。
そしてPolarisには、Oscillator SyncとRing Modulationの機能がある。Ring Modの回路はデジタルだ。
Osc2はDetuneとFilter EnvによるPitchの変調が可能。この二つのパラメータ("Detune", "Osc2 Env")はAssignable Controlからしかアクセスができないので、これが本体でのサウンドエディットを若干煩雑にしている。

オシレータの仕様を概観すれば、こんなところだろう。

三角波

さて、いま見たように、PolarisのオシレータにはTriangleのオプションがない。しかしインターネット上では、なんとSawsでPulse Widthを調整するとTriangleが出力されるという話をいくつも見かけるのだ。おそらくその情報源は、雑誌"Electronics & Music Maker"の1984年11月号の記事(Chroma Polaris—Programmable Polysynth with Sequencer, Mick Jones)だろう。

The layout of sound-generating controls on this six-voice, two VCOs per voice poly is fairly conventional, but examination of the two oscillators provides at least one interesting feature. At first glance, the option of a triangle wave appears to have been left out, but in fact the Polaris allows the effect of modulating between rising and falling ramps ('Saws' on the panel) in the same way many synth players are used to adjusting pulse waves. At the mid-point of travel on the pulse-width slider it is usual to find a square wave, and in the same way, you'll find your triangle wave in the middle of travel when the slider is controlling 'saws'.

これが本当なら、PolarisのPulse WidthはSawとTriのモーフィングを可能にしていることになる。しかしもしそうであるなら、"Pulse Width"ではなく"Waveform"と記されているはずだ。ちなみにマニュアルには、Pulse Widthでどう音が変わるかは「やってみればよく分かる」としか書かれていない。その通りではあるが。

それではオシロスコープで実際の波形を確認してみよう。

The Polaris Saws

Osc2の出力を切り、Osc1でSawsの波形を見てみる。
以下、Pulse Widthは順に0, 15, 31, 47, 63。

なるほど、これはノコギリ波と矩形波が組み合わさったものだ。Pulse Widthは文字通りのPulse Widthであるらしい。三角波が出るというのは、やはりデマであることが分かった。中間点(PW0)で三角波になるということはもちろんなく、むしろベーシックなノコギリ波となる。
それにしても、独特の曲線をもった波形である。

The Polaris Pulse

次はPulseを見てみよう。
以下、Pulse Widthは順に0, 15, 31, 47。

なんと、これはどう見ても矩形波ではない。PW0の波形を見るに、これは方形波と三角波の組み合わせだろう。しかし、このPW0以外のものは三角波では説明がつかないように思えるし、もちろんPW63で音は消えるようになっているので、単純に矩形波三角波を同時出力しているわけではないようだ。どういう仕掛けなのだろうか。
これもまた、独特の曲線をもった変態波形である。まさか矩形波のつもりでこんな音を出していたとは、お見それした。

ともかく、これでPolarisは確かに三角波を出力しているということが分かった。しかし矩形波との同時出力であり、純粋な三角波を出すことは叶わない。それを言えば、Pulseと言いながら純粋な矩形波を出すこともないのであるが。

Ring Modulation

ついでにRing Modulationの波形も見てみる。
PolarisではRing ModをOnにすると、それぞれのオシレータの波形選択(Saws/Pulse)は無効になり、2つのPulse波が掛け合わされる。(マニュアルでは「クロス積」"the digital cross-product of the two pulse signals"と説明されていた。)
以下、Osc1のPulse Widthは0に固定し、Osc2のPulse Widthを順に63, 47, 15, 0としている。 

結論

さて、以上をざっくりまとめると、Polarisのオシレータの"Saws"はノコギリ波+矩形波であり、"Pulse"は矩形波+三角波であるということだ。ただし単純な同時出力ではなく、特殊な設計が施されている。"Polaris Oscillator"と呼ぶに相応しい個性的なオシレータだ。

充実した機能もさることながら、Polarisのこの独特な味わいを持つ音にはこのような秘密が隠されていたということである。他に代えようがないのもそのはずだ。今後とも長く付き合い、その魅力を引き出してゆきたい。

4. コントロールパネルの脆弱性

ひとつ前の記事でも書いたが、Chroma Polarisメンブレンパネルの脆弱性で有名だ。ほぼ必ずボタンが反応しなくなる運命なのだ。
それでも、サウンドに関するパラメータはすべてMIDIで操作することができる。問題は、本体のパネルからしか変えることのできない設定が多くあること。外部からSequencerやLink Modeを有効にすることはできないし、プログラムの保存なども当然できない。とはいえM4LのMIDIエディターを作ったことで、Ableton上にプログラムを保存することができるようになったので、それは今では困ることがないのだが、最大の難点はMIDIチャンネルの設定ができないことである。上述の通り、Polarisはボイスごとのチャンネルの割り当てが可能なのだが、それができないのだ。
実はこの故障の原因は、メンブレンパネルそれ自体ではなく、このパネルを基盤と接続しているリボンケーブルの劣化にあるらしい。これがひび割れて断裂してしまうのだ。修理方法を調べてみると、リボンケーブルを切断してはんだ付けするといった方法が出てくる。しかしそれほどに脆いのであれば、断線している箇所は一箇所や二箇所では済まないだろうし、そこを直してもまたじきに壊れてしまうだろう。このケーブルを別の頑丈なものに交換してしまうことはできないのだろうか。そのあたりの知識がないので分からないが、それほど難しいことには思われない。回路図や、フロントパネルスイッチの配線マトリクスなどが簡明に記された資料はたくさん揃っている。

また、他にもチューニングが正しく行われなくなるという欠陥が多く報告されている。実際、もはや気にしていないが私のものもチューニングはひどくずれている。原因はCV信号のフィルタリングに使用されている、オレンジ色のポリプロピレン製キャップが劣化することにあるとの噂だ。基盤上のキャップをすべて新しいものに交換することが勧められている。

ちなみに私のPolarisは、パネルのみならず、1ボイスが故障して音が出ないという致命的な欠陥がある。6音にひとつは鳴らないので、その都度うまくシーケンスを組んでやらねばならない。
この故障したボイスのどこが悪くなっているのか実験してみたところ、オシレータの音は出ないが、ノイズとフィルターの発振音は出力されることが確認できた。ただ奇妙なことに、フィルターの周波数を高く設定するほど、なぜか音は低くなる。そしてオシレータのPWMを上げると、LFOの音がわずかながら直接聞こえるのだ。奇妙なサーキットベンドが生じているのだろうか。
MIDIチャンネルをうまく設定してやれば、5ボイスポリフォニックとして問題なく使うことができるはずなのだが、パネルの故障でそれも出来ないという二重苦の状態にある。

一体どれだけお金が掛かるのか分からないが、これほど魅力的で私好みのアナログポリシンセは他にないので、いつかは修理に持って行きたい。オペアンプを交換すれば、今より遥かに良い音も期待できる。やはり10万円は下らないのだろうか。それまでは故障したまま、うまく遊ぼうと思う。

 

余談:シンセサイザー用語を改めて考えてみる

ところで、PolarisではLFOがSweepと呼ばれているが、この"Sweep"という言葉の意味が未だに分からない。よく「Pitch/FilterをSweepする」とか「短い/長いSweep」とかいう表現を目にするが、その意味は分かっても語義が分からないのだ。
「掃く」といってもさっぱり意味が分からない。俗説で、語源は"swoop"「突然上から飛びかかる」ではないかと考えられているが、これも理解の足しにはならなそうだ。動詞"sweep"の意味としては、自動詞と他動詞とでかなり多くの用法があるが、方向表現と共に用いられることが多く、ざっくりと「さっと払う」「一気に押し流す」といった動き一般を指しているようだ。ここで形容詞"sweeping"の意味を見てみると、「広範囲にわたる、全面的な」「弧を描く」といったものがある。
なるほど、「弧を描くように動かす(変調する)」ことと理解してみれば、しっくりくる感じもする。たとえばバスドラムのトランジェントを形作るPitch Sweepなども、Envelopeが描く曲線のことを言っているのだとすれば納得だ。
しかしいや待て。それならばSquareのSweepはどうなるのか。これはまったく曲線状ではない。じっくり考えてみたものの、お手上げだ。

機能を理解していれば困ることはなく、使っているうちに当たり前のものとして覚えるものだが、シンセサイザー用語にはよく、日本語の感覚ではなかなか理解しづらいものがある。

そういえば、もはや当然のものとして馴染んでしまっていたが、"Envelope"もそうだ!初めてシンセサイザーに触れた中学生のあの時、パネルにでかでかと書いているこの語(封筒...?)に困惑したのを覚えている。ソフトシンセでADSRの形状を見てその機能は理解できたが、なぜそれが"Envelope"と呼ばれるのかは未解決のままだ。これにはさすがに、今ここで解答を与えてやらねばなるまい。
ただ、これはそれほど難しくもなさそうだ。"en+velop"で「中へ・包む(覆う)」の意味だから、シンセのEnvelopeとは、Gateに応じて生成される、ある信号の「包み」ないし「限界範囲」として理解することができるだろう。裏で鳴っている剥き出しのオシレータの音をEnvelopeが包むことで、形状を得て表に出力されるのだ。
おそらくこれで間違いないだろう。動作の様態の表現ではなく動作そのものの表現、機能の表現であるならば、それほど理解に困ることもない。しかし、他に良い言葉は無かったのだろうか。もし英語話者に改めてこれに名前をつけてもらうとして、また"Envelope"という言葉が出てくるとはあまり思えない。

調べてみたところ、Envelopeなるものは、60年代にRobert Moogが発明したときには既にそう命名されていたようだ。もっとも、お馴染みのAttack, Decay, Sustain, Releaseは、このときはそれぞれT1, T2, ESUS, T3と呼ばれていたらしい(Behringer911 Envelope Generatorではオリジナルに忠実にこの名称が用いられている)。これにADSRの名称を与えたのは、Arpである。"Envelope"にせよ"ADSR"にせよ、以来その名前で定着して変わることがないというのは面白いことだ。

Appendix

Owners Manualは状態が悪く判読の難しいPDFしか入手できないため、全ページではないが個人的に復元作業を行なっている。ある程度まとまったらここにアップするかもしれない。MIDI Implementationはすべて打ち込みなおした。

- Chroma Polaris MIDI Implementation [Reformated] 
https://drive.google.com/file/d/12go5xUGwrp88yDIPYI_4_5jSNlto3L1t/view?usp=drive_link

M4L Polaris Controllerはこちら。

methylphenyl.hatenablog.com