Rotted One Note

シンセサイザー雑記

【詳解・総評】Analog Rytm —Detailed Review

昨年の夏にModel:Cyclesを手放し、Analog Rytm mk1を中古で購入したのだが、サウンドシーケンサーのいずれの面においても、これは私にとってほとんど理想的なドラムマシンだった。
音を作り込めるドラムシンセサイザーとしてもクラシックタイプのドラムマシンとしても、他に比較対象となるような機材は限られているが、現在の市場で最もコスパの優れたものであることも間違いない。このスペックにして中古相場は約7万だ。
そして昨年11月にはOS1.70がリリースされ、多くのシンセシスモデルが新たに実装されたほか、Chromatic Modeのスケール機能や、ユークリッドシーケンサーの追加など、mk1, mk2共に大幅なアップグレードが施された。

Rytmは2014年に発売されてから、2017年のmk2を経て、もう10年近くElektronのフラグシップ・ドラムマシンの座に置かれた人気機種であるが、その細部にまで迫った資料がまとまったテキストという形では見当たらない。私も手にしてから初めて知るところが多かったため、この記事ではその全貌を細大漏らさず詳細に記述してゆこうと思う。購入を検討する人にとっては良い判断材料となるはずだ。ユーザーにとってもそれなりに読み応えがあるのではないかと期待する。

1章では仕様の概観と、サウンドアーキテクチャの分析的詳述。特に「Three Dual Oscillators」では、Rytmのドラムシンセサイザーとしての力量を深く掘り下げた。2章ではその強みと弱みに注目して、ユーザー視点から特筆すべき機能を個別具体的に述べてゆく。重要なポイントに関しては、マニュアルに記載がないところまで記述した。
この記事ではmk1 (OS1.70)を念頭に置いているが、ハードウェア設計以外の面でmk2との大きな機能の違いはない。その差異については1章「スペック」で短く述べておいた。

  • 1. 仕様の詳解 —Anatomy
  • 2. 総評 —Pros & Cons
    • Pros
      • 1. Overbridgeという外付けディスプレイ
      • 2. Velocity Modによる複雑なモジュレーションシーケンス
      • 3. FX Trackという13番目のシーケンサーによる外部機器制御
      • 4. 柔軟なTrack Routing
    • Cons
      • 1. Sample Playback Engineの貧弱さ
      • 2. MIDI Machineの欠如/MIDI Trackへの切替も不可 
      • 3. お役御免となってしまうAmp Envelope
      • 4. MIDIコントローラーなしではライブパフォーマンスに不向き
    • 意外とできないこと
    • Syntaktとの比較
  • 余談:アナログ・デジタル論争

次の記事では、Advanced Guideと題して引き続きRytmを扱う予定である。Elektron Sequencerの動作に関する検証や、サウンドデザインの方法論が主な内容になるはずだ。また、マニュアルのものより些か気の利いたコマンド(クイックキー)リストのPDFを作成中。

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Fender "Chroma Polaris"というシンセサイザー

Chroma PolarisのM4L MIDIエディターを公開した前の記事で書き連ねたように、10年近く側に置いてきたこのシンセへの愛着が最近いっそう強まってきた。数々の故障で満身創痍になりながらも、上品ながら深いコクのある音を出してくれるアナログポリシンセだ。なんと表現すべきか、Aphex Twinライクな質感の音で、他に代えが効かない。

いまそのポテンシャルを理解するようになったので、この機会にここで紹介してゆこうと思う。インターネット上では不正確な情報も多く散見され、特にオシレータの機構についてはひとつも確かな情報が見当たらなかった。この記事では、このシンセサイザーについて詳細に掘り下げてゆきたい。仕様については煩瑣なまでに網羅的に記述したので、機能面に興味が無ければ、3章「Polaris Oscillatorの秘密」まで読み飛ばすことをおすすめする。ヴィンテージシンセマニアの興味を引くに足るものになれば幸いである。

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M4L MIDI Device: Polaris Controllerリリース——機械を「ものにする」こと

maxforlive.com

Chroma PolarisAbletonからコントロールするためのMax for Live MIDI Deviceを作成した。ヴィンテージMIDI機器の動作に最適化された仕様になっており、実機のパネルよりも明快なインターフェースで、ストレス無く思うままにシンセを扱うことができる。作った音をプリセットとしてadv.形式でAbletonに保存することも容易い。データ処理が追いつくように工夫が必要だが、パラメータのモジュレートまで手軽にできる。

このデバイスを使うことができるのはPolarisの所有者かつAbleton Live Suiteユーザのみであり、ごく限られているが、このPolarisというシンセサイザーは設計上の欠陥により、特別な修理を受けていない限りはほとんど必ずコントロールパネルが故障して操作不可能になる運命におかれているので、需要はあろうと思い公開することにした。

  • バイスの特筆点
  • 機械を「ものにする」こと
  • How to Learn Max
  • 仕掛けを作る楽しみ
  • Appendix
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このブログについて

趣味で音楽機材のマニュアルを読んだりしているうちに、まとまった記事をいくつか書けるほどにメモ書きが溜まってきたので、ブログという形で共有することにした。

せっかくなので、シンセサイザーについて考えることなども文字に起こしてみようと思う。同じ趣味の友人がいないので、色々と考えることがあっても話すことができないのは少し寂しい。

ブログ記事に書き起こす理由としては、シンセサイザーなどの音楽機材についての欲しい情報が、インターネット上でなかなか見つけづらくなっているということもある。だいたいの情報は、Elektronauts、Reddit、Gearspaceといった掲示板のスレッドの中に散らばった形でしか手に入らず、有象無象の中から時間をかけて探すしかない。有益なものがまとまっていることなどほとんどないのである。
(ElektronautsはElektronユーザのフォーラムだが、投稿へのLike機能で有益な情報を探しやすくなっているおかげか、Elektronに限らず多くの機材についてのスレッドや雑談スレッドまで様々に存在しており、かなり活発に動いていて有識者人口も多い。助けられることの最も多いフォーラムかもしれない。)
なんとも惜しいことなので、見つけた情報や自分の知っていることを、たまにはひとが見れる形でも記録してゆくことにする。データ収集癖があるのでちょうど良いだろう。

ものを書く習慣がないので、少なくともスタイルが固まらないうちは、客観的な事柄と日記的な内容とが混在して読みづらい文章になりそうだ。

 

M4Lデバイスのリリース記事を皮切りに、以下の内容を載せてゆく予定。

Fender Chroma Polarisについて
私が長く所有している、Arp直系の6ボイスアナログポリフォニックシンセサイザー。最近になってかなり理解が深まったので、詳しい仕様などを紹介する。

・Elektron Analog Rytmについて
メジャーなドラムマシンだが、その詳しい仕様についてはそれほど知られていないように思われるし、購入を検討している人に役立ちそうな情報がまとまっていない。また、音作りに関するTipsなど。覚えづらいショートカットキーなどを整理した自分用のチートシートがあるので、pdfに書き起こすつもりだ。

Behringer Pro-1について
MIDI Clockの処理のされ方など、マニュアルに無い仕様について。

Ableton Liveを中心としたハードウェアセットアップ
複数のシンセサイザー・ドラムマシンをコンピュータに統合するセットアップ例。DAWから外部機器を同期・シーケンスしつつ、DAW上でモニタリングするのに耐えうる遅延補正の仕方。Ableton LiveによるCV出力など。

Ableton LiveのDJセットアップ
DJソフトで再生する各トラックをLiveへとパラアウトし、Live上でミックスするスタイルのセットアップ。好みのEQやプラグインを使うことができる。

・機材雑記
ラック機材がすっぽり収まるキャスター付きIKEA収納棚の紹介など。